東京図書株式会社

長岡亮介 線型代数入門講義 -現代数学の《技法》と《心》

長岡亮介 著

A5判 424頁 定価 3300円
ISBN 978-4-489-02082-7 C3041
2010年9月刊行

◎数学には,たくさんの豊かな意味がある.  それがわかれば,これほど楽しいものはない.

本書は著者の長岡亮介先生が放送大学教材として出版した『線型代数入門』と『線型代数学』を下敷きに,昨今の大学の数学講義事情に則して見直し,書き直しを行ったものです.これら好評だった書籍にあった「現代数学の方法」など,一部の章は省略していますが,数学の技術的な基本の修得に焦点を絞る代わりに,数学の文化的側面の理解に重点をおいた解説は踏襲し,刷新しています.

さらに本書の最大の特徴が,演習問題にあります.「試験に出るかもしれない問題の詳しい解説」より,「一題がしっかりわかれば,理論的な理解が得られ,それらを通じ百題,千題が解けるようになる」ことを目標に精選した問題を「本質例題」として本文に組み込み,線型代数の演習書に多い計算的な演習だけでなく,現代数学の規範になるような論証も例題として組み込むことで,現代数学特有の(論証の)考え方を理解してもらいたい,というメッセイジを込めました.

大学の数学らしい新しい概念や理論の登場にあわせて,その《登場の背景》を初学者が納得できるように,また今までにない新しい発想や技法が必要な場面には《新しさの急所》や《違和感の根拠》を,長岡先生独特の説明(処方せん:いたみ止め)によって説明します.

このことで,線型代数の基本部分が《ダイナミックな数学的ストーリー》として読者の内面に効率的に構築されることを目標にまとめています.ぜひ著者,長岡亮介先生が描く大学数学の,線型代数の物語を体験してください.

長岡亮介(ながおかりょうすけ)

1947年,長野県に生まれる。
1972年,東京大学理学部数学科卒業。
1977年,東京大学大学院理学系研究科科学史科学基礎論専門課程
      博士課程単位取得退学。
2009年4 月より,明治大学理工学部数学科教授。
専門は数理思想史。
主な著書に,『ニュートン自然哲学の系譜』(共著,1987,平凡社)など。

目 次

 はじめに

 

第1章 ベクトルの基本概念
§ 1.1 R2
§ 1.2 ベクトルのもつ代数構造
§ 1.3 ベクトルの幾何学的応用
§ 1.4 R3,そしてRn へ
§ 1.5 R3 での共面条件
§ 1.6 R3 における内積
§ 1.7 Rn の正規直交基底

 

第2章 行列の基本概念
§ 2.1 Rm の基底
§ 2.2 連立1次方程式と行列の起源
§ 2.3 行列の基礎概念
§ 2.4 行列の演算(加法,スカラー倍,転置)
§ 2.5 ブロック分割
§ 2.6 行列の立場から見た加減法のプロセス–掃き出し法

 

第3章 逆行列の概念,正則行列の概念
§ 3.1 行列の積の定義
§ 3.2 行列の積の性質
§ 3.3 行列の積についての際立った性質–非可換性
§ 3.4 単位行列
§ 3.5 逆行列,正則性

 

第4章 連立1次方程式
§ 4.1 変形とその表現
§ 4.2 行列の基本変形の数学的な表現–基本行列
§ 4.3 行基本変形と基本行列
§ 4.4 列基本変形と基本行列
§ 4.5 行列の基本変形と連立方程式の解法

 

階数(rank)の概念
§ 5.1 階数(rank)の概念
§ 5.2 階数の概念から見た連立1次方程式

 

第6章 行列式に向けて
§ 6.1 置換とは
§ 6.2 置換の積
§ 6.3 置換の表現
§ 6.4 Snの構造–群としてのSn
§ 6.5 置換の分類

 

第7章 行列式の概念とその計算
§ 7.1 行列式の起源
§ 7.2 置換の符号と行列式の定義
§ 7.3 特別な行列の行列式
§ 7.4 行列式の基本性質(1)–転置不変性
§ 7.5 行列式の基本性質(2)–交代性
§ 7.6 行列式の基本性質(3)–多重線型性

 

第8章 余因子行列の概念
§ 8.1 行列式のimplicitな定義と行列式の幾何学的意味
§ 8.2 その他の行列式の重要な性質
§ 8.3 行列式の展開と余因子
§ 8.4 行列と行列式
§ 8.5 連立1次方程式と行列式

 

第9章 線型空間の基本概念
§ 9.1 線型空間の定義
§ 9.2 部分空間
§ 9.3 線型独立性,線型従属性
§ 9.4 生成する空間
§ 9.5 基底と次元

 

第10章 線型空間の発展的概念
§ 10.1 計量線型空間
§ 10.2 正規直交基底

 

第11章 線型写像,線型変換の諸概念
§ 11.1 線型写像の概念
§ 11.2 線型写像の例
§ 11.3 線型写像の性質,部分空間
§ 11.4 同型写像
§ 11.5 像,核の次元
§ 11.6 数ベクトル空間上の線型写像
§ 11.7 線型空間の基底とベクトルの成分表示
§ 11.8 線型写像の表現
§ 11.9 線型写像の重要な具体例
§ 11.10 双対空間

 

第12章 線型写像の表現の単純化–基底の取り替え
§ 12.1 基底の取り替え行列
§ 12.2 基底の取り替えによる行列の変化
§ 12.3 実用的な場合の考察

 

第13章 不変部分空間から固有ベクトルへ
§ 13.1 部分空間の和
§ 13.2 直和分解
§ 13.3 不変部分空間
§ 13.4 不変部分空間への直和分解
§ 13.5 1次元不変部分空間

 

第14章 固有値,固有ベクトルと行列の対角化
§ 14.1 固有値,固有ベクトル,固有空間の概念
§ 14.2 固有ベクトルによる対角化の具体例
§ 14.3 数ベクトル空間での固有値,固有ベクトル
§ 14.4 異なる固有値に属す固有ベクトル
§ 14.5 固有値が重解(重根)になる場合
§ 14.6 対角化可能であるための必要十分条件

 

第15章 複素行列の世界
§ 15.1 ユニタリ行列とエルミート行列
§ 15.2 エルミート行列(対称行列)の対角化
§ 15.3 三角化

 

第16章 対角化の応用(1) –2次形式
§ 16.1 2次同次式
§ 16.2 2次同次式の標準化
§ 16.3 いろいろな2次曲線
§ 16.4 いろいろな2次曲面

 

第17章 対角化の応用(2) –微分方程式,差分方程式
§ 17.1 線型微分方程式
§ 17.2 具体的な微分方程式の解法
§ 17.3 線型漸化式の解法
§ 17.4 線型微分方程式と線型漸化式

 

第18章 ジョルダンの標準形(1)
§ 18.1 対角化に代わる“準対角化”
§ 18.2 行列多項式
§ 18.3 フロベニウスの定理,ハミルトン・ケイリーの定理
§ 18.4 行列の級数

 

第19章 ジョルダンの標準形(2)
§ 19.1 冪零行列
§ 19.2 冪零行列とそのジョルダン標準形
§ 19.3 最も基本的な行列のジョルダン標準形
§ 19.4 広義固有空間
§ 19.5 ジョルダンの標準形(一般の場合)
§ 19.6 ジョルダンの標準形への変形の具体例
§ 19.7 線型の世界,非線形の世界